「奇想天外男」

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 私はこれから初めて彼氏の友達に会う。人生でそう多く経験するイベントではない。緊張とワクワクが8:2の比率でせめぎ合っている。どんな人なんだろう。怖い人だったらどうしよう。でもきっと私の彼氏の友達なんだからいい人に決まっている。
 初めて会うとは言っても、多少の情報は事前に彼氏から聞いていた。優しい人であるということ。女性と会話するのが苦手ですぐに緊張してしまうということ。大学受験で2浪してしまい、23歳にしてまだ4回生であるということ。友達の名前は「宮川」であるということ。。。
 彼氏の友達が待っているというバラ池公園についた頃、緊張とワクワクの比率は2:8になっていた。いっその事、3人で仲良く遊びに行くくらいには仲良くなれたらいいな。しかしこんなことを考えていた私は、手の施しようがない阿呆であった。





 バラ池公園に到着した私は、彼氏の後について歩いた。そこは私が想像していた以上に広く小綺麗な公園であった。真ん中には大きな池があり、男女が身を寄せ合いその日のデートを回想しながら夜が更けていくにはあまりも適した公園であった。
 公園の小綺麗さが手伝って、私の「宮川」に対するイメージはどんどんと良い方向へと膨らんでいく。大学卒業後には東証一部上場しているIT企業に勤め、夜になるとJazzを嗜み、休日は車をいじって海までドライブに行く。そんな爽やかハイスペック男児であると予感していた。
 しかし実際に私の前に現れた「宮川」は、およそこの世の物とは思えぬような風態をしており、お世辞にもハイスペックとは呼べない雰囲気が全身を包んでいた。無駄に大きな身体に、薄汚れたおそろく元は白色だったよれたTシャツ、ジャージの短パン、足元はサンダル、なんと首元には恐ろしく湿っているタオルがかけられているのではないか。それは私に、まだ見ぬ西成の地を鮮明に想像させた。
 人は見た目で判断してはいけないと幼い頃から教育を受けてきた私も、この時ばかりは親の教えに逆らいかけた。どうか人違いであってくれ。そんな私の願いも虚しく、私の彼氏は「西成男」と親しげに挨拶を交わした。こいつが「宮川」であることが確定した。






 とはいえ、私ももう成人してから3年は経つ立派な大人の女性である。社会における立ち回りは弁えているつもりだ。私はまず、混乱しきった脳内を落ち着かせることに成功した。
 しかしこの「宮川」一向に私を見ないのである。まるで私がこの場にいないかのように振る舞うのである。私から「こんばんは」と声をかけるものの返事がない。聞こえていないわけではなく、聞こえていないフリをしていることが容易に読み取れた。
 とりあえずここまでの一連の流れは忘れることとしよう。そうすることで私は再び冷静を保った。
 そしてベンチを探して公園内を歩き始めた私たちにさらなる衝撃が走る。突然、「宮川」がまるで大物歌舞伎役者のように、片足でトントンと小気味良くリズムを刻みながら飛び跳ね始めたのである。その間も「宮川」は、「あぁ、、ちょっと待って、、あぁ」などと声帯を震わせている。私は目の前で起きている出来事が理解できずにいた。しかしそれがこの世の出来事を「良い出来事」と「悪い出来事」に分けるのならば、確実に「悪い出来事」に分類されることは私にも簡単に理解できた。後々分かったことだが、「宮川」はサンダルに小石が入り、それを取り除こうとしてこの動きをしていたらしい。私の彼氏は私を目隠しし、「見たらアカン。」と耳打ちした。

 

 

 ようやくいい感じに池が眺められる3人用のベンチを見つけ、私たちは腰をかけた。もちろん私と「宮川」の間には彼氏が盾となって座っている。「宮川」は座るやいなや、「Musicがいるなー。」と言い始めた。そしておもむろにスマホを取り出し、曲を流し始めた。しかしその曲がこれまた驚愕。この公園に似つかわしくない、ゴリゴリのHip hopを流し始めたのである。彼氏は私をチラリと一瞥すると、「宮川」に音楽を止めるよう指示した。「宮川」は次の曲へとスキップしてから、ほんの数秒曲を聴き、音楽を止めスマホを下ろした。
 ようやく私たちの間に落ち着いた空気が流れ、ゆっくりと会話が始まった。しかしその内容は、彼氏と「宮川」の間でのみ通じる、いわゆる「内輪ネタ」を永遠話していた。私は若干の寂しさを覚えたものの、「宮川」への恐怖心が芽生えてしまっているため、このまま続けてくれとも思えた。
 しかし彼氏が気を利かせて「宮川」に、「なんか2人で話して仲良くなりや。質問とかないん?」と振った。「宮川」は、「おっふ、、。ああぁぁぁはあ~ん」などと一通り奇声を発した後、「あにょー、僕って大学卒業できますかぁ~はぁああん?」と聞いてきた。私は質問の意図もよく分からないし、なぜ1発目の質問がそれなのかも分からないし、どう回答すればいいかも1mmも分からなかったため、聞こえていないフリをした。彼氏もおそらく同じことを考えたのだろう。私の聞こえていないフリは、暗黙の内に認められたのである。奇跡的にその場にいた全員の中で「宮川」の発言はなかったこととなったのだ。穏やかな池を眺めながら、3人の中には心地よい沈黙が流れていた。

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